パワーアンプ (PA) のデジタルプリディストーション (DPD) は現在も活発に研究が進められている分野であり、機械学習は現代の通信システムが直面する課題の解決に貢献すると期待されています。本ホワイトペーパーでは、NI RFプラットフォームを用いて、実際のPAから取得した波形データを用いて、機械学習ベースのDPD (ML-DPD) モデルをトレーニングし、PAによりML‑DPDのプリディストーション性能を検証し、他の最先端アルゴリズムと比較した性能ベンチマーク評価を実施しました。また、実験作業を通じて得られた主な知見を紹介するとともに、実環境でMLベースDPDをデプロイする際に直面する課題や研究テーマについてまとめます。
近年、人工知能 (AI) および機械学習 (ML) の分野で大きな進歩があったことにより、多くの産業における困難な課題に対して新たな解決方法が生まれています。無線分野において、AI/MLの活用は新たなサービスの提供やモバイルネットワークの改善に向けた有望な技術の1つとして注目されています。1 AI/MLは、モバイルネットワーク事業者 (MNO) がネットワークの効率を高め、運用コストを削減するという大きな目標の達成にも貢献します。これらの改善により、時間、周波数、空間領域でのより賢明なリソース割り当てによるスペクトルの効率的な活用や、より優れた干渉補償方式が可能になると考えられます。さらに、AI/MLの活用によって、基地局の主要なコスト要因の1つであるエネルギー効率の改善も可能になります。たとえば、基地局を需要に応じて効率的にオン/オフ制御することで、パワーアンプの電力利用効率を向上させることができます。
AI/MLはネットワークレベルでの実装においてすでに効果を上げていますが、RF層や物理層 (PHY)、MAC層といった下位レイヤでの実用化には、なお多くの課題が残されています。こうした下位レイヤの厳格なタイミング要件により、従来技術と比べて明確な性能向上を実現する、堅牢かつ高信頼なAI/MLベースアルゴリズムの開発およびデプロイは困難になります。2 このような理由から、AI/MLを適切な領域で効果的に活用するためのトレードオフを把握し、実ネットワークでのデプロイにおいてそのAI/MLアルゴリズムが確実に機能することを証明するため、本分野は依然として研究段階にあります。最終的には、従来のアプローチと比較してAI/MLの使用が明確な効果をもたらすことを示すことが、新たな投資を裏付けるために不可欠です。
今日の無線通信システムにおけるRF/PHY/MAC層を対象としたAI/MLの研究では、次のような領域が主に取り上げられています。
別のNIホワイトペーパーでは、NIのSDRデバイスを活用してリアルタイムニューラルレシーバをプロトタイピングおよびベンチマーク評価するためのフレームワークを紹介しています。このホワイトペーパーでは、NIのRFハードウェアを使って、パワーアンプのデジタルプリディストーションにおけるMLアルゴリズムのプロトタイピングおよびベンチマーク評価を行った事例を紹介します。DPDに関して研究されてきた代表的なニューラルネットワークの一部を簡単に紹介します。実PAの波形データを使用してML-DPDモデルをトレーニングするプロトタイプアプリケーションを構築し、同じPAにおけるプリディストーション性能を検証するとともに、他の最先端アルゴリズムとベンチマーク比較した結果についても説明します。最後に、実験作業を通じて得られた主な知見を紹介するとともに、実環境でMLベースDPDをデプロイする際に直面する課題や研究テーマについてまとめます。
パワーアンプ (PA) は、非線形領域で動作する際に最も高い効率を発揮することが広く知られています。しかしながら、この領域ではPAの非線形特性によって生じる相互変調により、不要な帯域外放射が生じます。一般的に、歪みを補正する目的で、送信波形にデジタルプリディストーションが施されます。この補償、即ちプリディストーションは、PAの非線形性の逆特性をデジタルベースバンドで適用することで、DPDとPAを組み合わせた応答を再び線形にします。図1は、この補償方式を示しています。その結果、DPDによってPAは線形性を損なうことなく、非線形領域で高い電力効率を維持して動作することが可能になります。
要求がますます厳しくなるデータレートには、主に高いキャリア周波数で利用可能な広帯域が必要であり、通常はアンテナアレイによってエネルギーを指向制御し、高いパス損失を克服する必要があります。このような条件下で動作するよう設計されたPAにおいては、以下の理由によりDPDのデプロイがますます困難になっています。
現代の通信システムにおける前述の課題に対処するためには、DPDに対して革新的なアプローチが必要となっています。機械学習は、産業界および学術界で積極的に研究が進められているアプローチの1つであり、次のセクションで詳しく説明します。
図1. デジタルプリディストーションの原理
図2.DPDによるスペクトルリークの改善
図2は、デジタルプリディストーションを適用した場合と適用しない場合のWi-Fi PAの出力信号を比較し、プリディストーションによるスペクトルリークの改善例を示しています。DPDの重要な課題の1つは、使用しているPAの非線形性を把握し、その基礎となるPAモデルを推定することです。従来、メモリレスな非線形性に対しては、AM/AMおよびAM/PMの歪みを測定して作成された静的ルックアップテーブルを用いるアプローチが採用されてきました。メモリを持つ非線形性に対処するために、メモリ多項式モデル (MPM) や一般化メモリ多項式モデル (GMP) などのボルテラ級数ベースのモデルが一般的に使用されています。
ニューラルネットワークは、非線形メモリ効果を有するパワーアンプのような非線形システムをモデル化できる特性から、ビヘイビアモデリングおよびデジタルプリディストーションへの応用に向けて研究が進められています。
数十年前、ある研究チームが、3Gパワーアンプのビヘイビアモデリングのために、多層パーセプトロン (MLP) 構造に基づいた5リアル値時系列ディレイニューラルネットワーク (RVTDNN) モデルを提案しました。信号の同相 (I) 成分および直交 (Q) 成分にタップ遅延ラインを使用して、PAの短期メモリ効果をモデル化しました。強いメモリ効果と高い非線形性を有する3Gセルラー通信システム向けPAのビヘイビアモデリングには、全結合型リカレントニューラルネットワーク (FRNN) が提案されました6。入力として複素信号を用い、重みおよびバイアスも複素数でした。ニューラルネットワークを用いたパワーアンプのデジタルプリディストーションは、WCDMA信号を対象に広く検討および検証されており、複素勾配の計算を回避する実数値フォーカス時間遅延ニューラルネットワーク (RVFTDNN) が提案されました7。
リカレントニューラルネットワーク (RNN) は、現在の出力が現在の入力だけでなく過去の入力にも依存するというメモリ効果を本質的にモデル化する能力を有しています。しかし、RNNは勾配消失の問題により、長期的なメモリ効果の捕捉には課題があります。RNNにおける勾配消失の問題に対処するため、ロングショートタームメモリ (LSTM) ネットワークが提案されました。8
LSTMネットワークは、過去の情報と新しい情報がネットワークのメモリ状態に与える影響の度合いを適切に制御するために、さまざまな種類のゲートを採用しています。9長期的なメモリ効果を持つGaN PAのビヘイビアモデリングに向けて、あるチームはFRNNの限界を補うためにLSTMネットワークの活用を検討10しました。7LSTM (BiLSTM) やゲート付き再帰ユニット (GRU) ネットワークなど、RNNベースの強化型または最適化された他のバージョンも、デジタルプリディストーションを目的として紹介されています11,12。最近、畳み込みニューラルネットワーク (CNN) がPAのビヘイビアモデリングとプリディストーションのために研究されました。13
ビーム依存の負荷変調が発生するアクティブアンテナアレイを備えたマッシブMIMOシステムにおいて、デジタルプリディストーションの継続的なパラメータ更新を回避するために、ニューラルネットワークの導入も提案されています。14このケーススタディでは、DPDにLSTMベースのニューラルネットワークを実装するアプローチを選定しました。
図3には、実装したニューラルネットワークのすべてのレイヤを示しています。このネットワークは、歪みのない複素数の時間領域信号 x[n] のサンプルを入力として受け取り、出力としてプレディストーション処理された複素数の時系列信号 z[n] を生成します。1つのタイムステップでは、LSTMレイヤへの入力は、現在および過去M個の入力信号サンプルに含まれる同相成分iと直交成分qであり、ここで、Mはメモリ深度です。
図3. モデルアーキテクチャ
ニューラルネットワークは、学習 (トレーニング) 段階において、トレーニングデータセットを用いてDPDの目標機能を学習させる必要があります。DPDモデルにおいて一般的に用いられる学習アーキテクチャには、ダイレクトラーニングアーキテクチャ (DLA)、インダイレクトラーニングアーキテクチャ (ILA)、または反復学習制御 (ILC) に基づくアーキテクチャがあります。このケーススタディでは、PAを直線化する最適なPAプレディストーション入力信号を提供する手法として、トレーニングデータの生成にILCを採用しました。
ILCベースのDPDは、あらゆるDPD手法のパフォーマンスを評価するためのベンチマークとして有用です。
図4には、歪みのない入力信号x[n]を基に、PAへの入力信号でもあるプレディストータ出力信号z[n]を反復的に算出するILCの学習アーキテクチャを示しています。十分な反復を経た後に得られるプレディストータ出力信号は、理想的なプレディストータ出力信号および理想的なPA入力信号zideal [n]とみなすことができます。
図4. 学習アーキテクチャ: 反復学習制御
1組以上の、歪みのない入力信号とそれに対応する理想的なプレディストータ出力信号は、従来の一般化メモリ多項式モデルを含むあらゆるDPDモデル、あるいは本ケースのようなニューラルネットワークモデルの学習やパラメータ調整に使用することができます。トレーニングプロセスの過程では、理想的なプリディストータ出力信号が、DPDモデルが各歪みのない入力信号に対して生成すべきターゲット出力信号のグラウンドトゥルースとして機能します。このプロセスを図5に示します。
図5.DPDモデルトレーニング
機械学習ベースのDPD実装における全体的なワークフローを検証するために、プロトタイプアプリケーションを作成しました。
このアプリケーションは、NI PXIシャーシ内のPXIコントローラで動作し、NI PXIベクトル信号トランシーバ (VST) を用いてRF信号を生成および解析するとともに、NI PXIソースメジャーユニットでDC電源を供給し、PAへのデジタル制御ラインも駆動します。図6は、テスト設定のブロック図を示します。
図6. ハードウェア接続を示すテスト設定
アプリケーションは、以下の手順を実行するために使用されます。
これらのユーザ操作を図7に示します。以降のセクションでこれらの内容を詳しく説明します。ニューラルネットワークモデルのトレーニング処理を除き、アプリケーション全体はNI LabVIEWで記述されています。NIベクトル信号トランシーバ (VST) を用いてPAに対する標準的なRF計測を実行するために、NI RFmxソフトウェアを使用しています。波形ファイルの作成には、NI RFmx Waveform Creatorを使用します。ニューラルネットワークモデルのトレーニングは、TensorFlowおよびKerasライブラリを使用してPythonで実装されます。より高速に実行するために、トレーニングはNVIDIA GPUを搭載したLinuxサーバで実行されます。
図7. ML-DPDプロトタイプアプリケーションのユーザ操作
Creatorは、通信規格に準拠した波形を作成するために使用できます。このケーススタディでは、NI-RFmx Waveform Creator for WLANを使用して、80 MHzのチャンネル帯域幅を持つ1 ms長の802.11axフレームを複数生成する波形データを作成しました。ペイロードデータには異なる擬似ランダムデータビット列を使用し、変調方式はBPSKから1024-QAMに変更しました。波形はTDMSファイル形式で保存されます。
これらの波形は、データセットにおける歪みのない入力信号を構成します。ユーザが指定した入力に基づき、波形データセットは a) トレーニング用波形データセット と b) テスト用波形データセットに分割されます。たとえば、トレーニング用波形データセットには、通常、一部のBPSK波形が含まれていました。
次のステップでは、トレーニングデータセットを作成します。NNモデルをトレーニングするためには、歪みのない入力信号と、それに対応する理想的なプリディストータ出力信号が必要です。これらは、RF中心周波数や入力平均電力レベルなど、事前に決定したPAの動作条件において実際のPAを用いて算出されます。
波形TDMSファイルから読み取った各歪みのない入力信号とPAの動作条件に対して、理想的なプリディストータ出力信号は次のように算出されます。RF設定は、必要なPAの動作条件に従ってNI-RFSGで構成します。NI-RFSGは、NI VST内のベクトル信号発生器を使用して、ステップ1で作成されたトレーニング波形データセットの波形TDMSファイルから読み取ったRF信号を、PAの入力として生成します。PAの出力信号は、NI VST内のベクトル信号アナライザによって集録され、NI-RFmx SpecAnのIDPD (ILC DPD)測定機能を使用して測定されます。測定によりプリディストーションされた波形が返され、これを理想的なプリディストータ出力信号として記録します。
波形I/Qデータは、信号およびRF設定に関する関連メタデータとともに、TDMS形式のトレーニングデータセットファイルに記録されます。
トレーニングデータセットファイルには、以下の情報が含まれます。
すでに述べたように、研究者はこのデータセットを使用して、プリディストータのあらゆるモデルを学習することができます。トレーニングデータセットの取得プロセスは、トレーニング条件に変更がない限り、繰り返す必要はありません。
トレーニングデータセットを取得したら、次のステップはモデルのトレーニングです。使用されるプロセスを図8に示します。トレーニングアプリケーションは、TensorFlowおよびKerasライブラリを使用してPythonで作成され、高速トレーニングのためにNVIDIA A100 GPUを搭載したLinuxサーバで実行されます。トレーニング波形データセットは最初にトレーニング、検証、およびテストデータセットに分割されます。トレーニング中、モデルにはトレーニングおよび検証データセットからの歪みのない入力信号が与えられ、それに対応するプリディストータの出力信号を予測します。
後者は対応する理想的なプリディストータ出力信号と比較され、それに基づいてトレーニングおよび検証の損失が算出されます。トレーニング損失はモデル係数の更新に使用されます。モデルが適切に一般化しているかを評価し、過学習を検出するために検証損失が監視されます。予測された出力と、理想的に望まれるモデル出力 (理想的なプリディストータ出力) との間の平均二乗誤差 (MSE) を損失指標として使用しています。
図8.モデルのトレーニング
トレーニングおよび検証の実験においては、MSE損失の値が10-4未満に到達し、トレーニング損失と検証損失曲線が同様に低い値に向かって滑らかに収束する場合に、トレーニングが成功したと判断されました (図9を参照)。トレーニングプロセスの最終的な出力は、トレーニング済みモデルの係数を含むH5ファイルです。
図9. 望ましいトレーニングおよび検証損失曲線
トレーニング済みのML-DPDモデルが、学習に使用していない波形データにも対応できることを確認するために、検証を行う必要があります。このため、PAに信号を生成する前に、トレーニング済みモデルを使用して、テスト波形データセットから波形データにDPDを適用します。モデルは、モデル係数ファイルと波形データを入力として渡すことで、LabVIEWからPythonライブラリを呼び出して適用されます。その性能はILC DPDと比較されます。ILC DPDやML-DPDに加え、テストアプリケーションは従来のDPD手法 (メモリ多項式DPDなど) も適用でき、ML-DPDの性能をそれらと比較評価できます。性能は、信号の種類に応じてNI RFmx SpecAnおよびRFmx NRまたはRFmx WLANを使用し、RMS EVMやACLRといった標準的な指標に基づいて比較できます。
図10. 望ましいトレーニングおよび検証損失曲線
プロトタイプアプリケーションは、TriQuint製Wi-Fi用パワーアンプ (評価ボード) に対してML-DPDの設計とテストを行うために使用されました。TQP887051)。
図11. PXIシステム (左) とTriQuint Wi-Fi PA (右) を用いたML-DPDプロトタイプアプリケーションのテスト設定
テストにおいては、中心周波数を5.5 GHz、PAへの入力平均電力を−8.5 dBmに設定しました。図11は、この動作ポイントにおけるPAのAM-AM特性をNI-RFmx SpecAnを使用して、約PAPR 10.5 dBの802.11ax、80 MHz、1024-QAM波形で測定したものです。PAは、約25.7 dBの線形利得を示しています。ピーク入力電力レベルが約2 dBmのとき、PAの出力は約3 dBのゲイン圧縮を示します。
図12. 5.5 GHzおよび入力平均電力−8.5 dBmにおけるPAのAM-AM特性
この動作ポイントにおいて、BPSK変調方式を用いた13種類の802.11axフレームを含むトレーニングデータセットでモデルの学習を行いました。モデルパラメータのメモリ深度を4サンプルに設定し、モデルサイズは約24,000パラメータになりました。検証用データセットには、BPSK変調方式の802.11axフレームを3種類含めました。各802.11axフレームの長さは1 msです。図12は、トレーニング中に観察された損失曲線を示します。観測されたトレーニングおよび検証の損失がおよそ2×10-4であることは、許容範囲内と判断されます。異なるメモリ深度の値を試したところ、4の値が適切であることが分かりました。
図13. トレーニングされたモデルの損失曲線
次に、異なる波形データおよび0.25 dB刻みで−15 dBmから−8.5 dBmまでの範囲の入力平均電力レベルを用いて、モデルをテストしました。図13のテスト結果の例では、テストデータセットから1024-QAM波形データファイルを使用しました。これは、前述のAM-AM特性の計測に使用したのと同じ波形です。3つのプリディストーションモードに対して、NI-RFmx WLANを用いてRMS EVMを計測しました。
ML-DPDの性能をILC DPDと比較しました。これは、ML-DPDがILC DPDのデータをグラウンドトゥルースとして用いてトレーニングされたためです。グラフに示されているように、ILC DPDとML-DPDの両方で、プリディストーションなしで測定されたEVMと比較して、EVMが大幅に改善されています。トレーニング時に使用された入力電力レベル−8.5 dBにおいて、トレーニング済みのML-DPDは最適なILC DPDと同等のEVM性能を示します。
他の大半の入力電力レベルにおいても、ML-DPDのEVM性能はILC DPDの値に近く、1 dB以内の差に収まっています。−10.5 dBm〜−9.5 dBmの入力電力範囲においてのみ、ML-DPDと最適なILC DPDの間ではEVM偏差が最大2dBとわずかに大きいことがわかります。この差は、これらの電力レベルの追加トレーニングデータをトレーニングプロセスに取り入れることで、さらに縮小できる可能性があります。
図14. プリディストーションの有無によるWLAN RMS EVMの比較
本ホワイトペーパーでは、NIのソフトウェアおよびハードウェアを用いて、パワーアンプのデジタルプリディストーションに対する機械学習アプローチのプロトタイピング、検証、ベンチマーク評価をどのように行えるかを示しました。トレーニングデータの生成と、他の最新DPDアルゴリズムとの推論性能の比較検証には、同一のプロトタイピングシステムを使用しました。Wi-Fi用PAのDPDに対して、LSTMベースのニューラルネットワークを適用した際の結果例を示しました。この特定の例では、MLモデルのトレーニング時にリファレンスとして使用したILC DPDが示す下限値に対して、ML DPDの性能が非常に近い結果となっていることが確認されました。
この例の結果は良好に見えますが、検討を進める中で、サンプルML DPDモデルが期待どおりに動作しなかったケースも確認されている点に注意が必要です。本調査から得られた重要な知見の1つは、新たなML DPDモデルについて、効率と複雑性のトレードオフをより深く理解するために、他のDPDアプローチとの比較やベンチマーク評価を行うことが常に重要であるという点です。ML DPDの活用によって利点が得られるケースと、従来のDPDアルゴリズムの方が適しているケースとを、現実的なシステム上で明確に証明することが重要です。
以下の研究分野には、さらなる研究と技術革新が必要であると考えています。
これらの研究課題を検討するにあたっては、先進的なハードウェアとソフトウェアを備えたNIのRFハードウェアが、よりエネルギー効率の高いRFシステム設計において考慮すべきML DPDの具体的なトレードオフを理解するための有力なツールとなります。このような検討を重ねることにより、最終的には、移動体通信ネットワークのような重要なシステムにおいて高度なAI技術を採用することへの信頼性が高まることにつながります。
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