PXIシステムの中心構造として機能するシャーシは、PCの筐体およびマザーボードに相当します。電源、冷却、通信バス、およびその中のすべての機器に電力を供給します。さらにシャーシは、自動テスト用途におけるPXIの高い性能を支えるタイミング、トリガ、同期機能も提供します。NIのシャーシは、高性能バックプレーンを採用し、作りも堅牢で信頼性の高いものとなっています。NIシャーシは2スロットから18スロットまでのサイズ展開があり、ポータブル、ベンチトップ、ラックマウント、組込システムなど、用途に応じて最適なモデルを選択できます。NI PXI Expressシャーシは、PXI Express、PXI、CompactPCI Express、およびCompactPCIモジュールに対応しています。 本書では、市販されている他のシャーシと比較して、性能と信頼性を高めるNI製品の機能についてご紹介します。
各PXIシャーシにはさまざまなスロットが搭載されており、組込コントローラ用のシステムスロット、PXI Expressモジュール用の周辺スロット、PXIまたはPXI Expressモジュールに対応するハイブリッドスロットがあります。PXI Systems Allianceによって定義されたPXI Express仕様では、各周辺スロットに対して最低30 Wの電力を供給することが求められていますが、モジュールの冷却についての具体的な要件は定められていません。他社製のPXIシャーシは、最小電力仕様を満たしている場合がありますが、実際にはファンの位置などの設計上の選択により、電力性能や冷却性能が大きく異なることがあります。これらのベンダは、82 Wを超える電力供給および冷却が可能であると主張していますが、すべてのスロットでそれが実現できるわけではなく、多くの場合、制約の多い、または達成が困難な条件にシャーシが従う必要があります。
最新世代のNI PXI Expressシャーシは、PXIシャーシ内の各スロットに対して少なくとも58 Wの冷却を提供することで、最も高い電力を必要とするPXIモジュールの冷却要件を満たすか、それを上回るように設計および検証されています。優れた冷却能力により、シャーシ内での計測器の配置に最大限の柔軟性が得られます。
さらに、一部のNI PXIシャーシはスロット冷却能力をさらに高め、1スロットあたり82 Wの冷却を実現することで、デジタイザ、高速デジタルI/O、RFモジュールといった高性能モジュールの先進機能を、連続データ収集や高速テストを要する用途でも発揮できるようにしています。PXIシャーシは使用可能な総電力量が異なる場合があるため、新しいシステムを構成する際には、システムレベルでの電力予算を確認することが常に推奨されます。NIの最上位クラスのPXI Expressシャーシは、電力予算の計算を行わなくても、十分な電力供給と冷却に対応しています。
NIシャーシは、以下の種類のモジュールを含む高消費電力の計測器でスロットがすべて埋められた状態でも対応可能です。
図1: NI PXIe-1095シャーシは、特許取得済みの背面冷却ファン設計を採用しています。
多くのNI PXIシャーシは、この特許取得済みの背面冷却ファン設計を採用しています。図1に示すように、シャーシ (2) の背面からの空気が回転翼を通って全てのモジュールスロット (1) 間に均等に分配されます。この設計は、ファンがモジュールの真下に配置されているシャーシ設計と比べて、冷却性能が向上し、空気の流れが停滞する箇所も少なくなります。シャーシ背面のファンは、モジュールが受けるファンモータからの電気ノイズの量を低減するのにも役立ちます。
NIでは、使用していないシャーシスロットに挿入できるプラスチック製モジュール型のPXIフィラーカードとして、スロットブロッカーも提供しています。スロットブロッカーは、空きスロットでの空気のバイパス流を抑えることで、使用中のスロット内の気流を改善し、実装されたモジュール上の電子部品の温度上昇を最大20%抑えます。
これらの設計上の利点により、NI PXIシャーシは他の主要ベンダと比較して冷却性能が向上しており、これはシャーシに挿入されたPXIモジュール上のコンポーネントの平均温度差 (最小―最大) を測定することで評価されています。ベンチマーク評価において、NI PXIe-1095シャーシは、58 Wの高冷却ファン設定 (周囲温度55℃で5,200 RPM) において、4.6 ℃優れた冷却性能を発揮しました。
上述のような優れた冷却機能を備えていながら、NI PXIシャーシはシステム全体のアコースティックエミッションを最小限に抑えるよう設計されています。PXIシステムはラックマウント型の自動テスト環境とベンチトップ検証環境の両方で使用され、アコースティックエミッション要件が異なるため、これらは重要な考慮事項となります。ファン速度の制御、使用するファンの種類、ファンの取り付け方法などにより、放出される音響ノイズを最小限に抑えながら冷却の最適化が可能となります。
多くのNI PXIシャーシでは、ファン速度切替スイッチを使用することで、ファン速度を「高」または「自動」から選択することができます。「自動」に設定すると、シャーシのファン速度はシャーシのファン吸気口での周囲温度に比例して制御されます。30℃より低い場合、シャーシの冷却システムはアコースティックエミッションを最小限に抑える音響性能領域で動作します。30℃を超える周囲温度が計測された場合、シャーシの冷却ファン速度もそれに伴って上昇します。ファン速度を「高」に設定すると、シャーシは周囲温度に関係なく最大の気流を供給します。このモードは、音響ノイズが問題とならない用途に最適です。
ファン速度 | 音圧レベル[dBA]* | ||||
---|---|---|---|---|---|
| NI PXIe-1084** | NI PXIe-1095** | NI PXIe-1092 | NI PXIe-1088 | NI PXIe-1083 |
自動 (最高30℃) | 34.4 | 37.7 | 35.9 | 44.3 | 48.4 |
高 | 55.0 | 56.6 | 55.7 | 59.0 | 61.9 |
* 音圧レベルはISO 7779規格で定められた計測法に従い、操作者位置で測定
** 38 W冷却プロファイルモードを適用した場合。58 W/82 W冷却プロファイルを適用した場合の音圧レベルはこれより高い
表1: PXI Expressシャーシの音圧レベルの比較
NIでは、多くのPXIシャーシにパルス幅変調 (PWM) ファンを採用していますので、従来型の電圧制御ファンに比べアコースティックエミッションをさらに低減することができます。ファンのPWM信号制御により、NIシャーシの設計者はファンのRPM設定をより広い範囲で使用できるため、シャーシのアコースティックエミッションおよび冷却性能を微調整することが可能になります。
PXI仕様の冷却要件を満たす (および上回る) には、NI PXIシャーシに内蔵するファンは強力なものでなくてはなりません。多くのNIシャーシでは、振動を緩和する素材で製造したファンマウントを使用しているため、シャーシのフレームがファンの機械的振動から隔絶され、さらに音響ノイズが軽減されます。多くのNI PXIシャーシでは、それらのマウント (つまりファン) は多くの場合背面に設置されているため、PXIモジュールに伝達される電気ノイズ (EMI) の量の軽減にもつながります。
NI PXIシャーシは、システム全体のアコースティックエミッションの低減を念頭に設計されており、しかも同時に強力な冷却性能を実現しています。表2に記載されているように、38 W冷却モードのPXIe-1084など、一部のシャーシファンはベンチトップ性能に最適化されています。なお、ノイズが10 dB低減されることは、ヒトの感覚上ノイズが1/2になることを意味します。
PXI Systems Allianceが定義するPXIプラットフォームの仕様によると、18スロットPXI Expressシャーシはシステムコントローラとモジュールスロットに電力を供給するため、3.3 V、5 Vおよび+12 Vのバックプレーンレールに650 Wの電力を供給することを必須としています。ベンダ各社が提供するPXIシャーシを比較する際には、総電力量やスロットあたりの電力量だけでなく、「バックプレーンに供給される電力」などの仕様を考慮することが重要です。NIでは、電力仕様を定義する際、総電力、バックプレーンに供給される電力、スロットあたりの電力のいずれであるかを明確にしています。他社製品の中には、通常の設置/動作環境では実現不可能な誤解を与える電力仕様を謳っているものもあります。
NIの製品ドキュメントで、シャーシ電源からモジュールに供給される総電力量を指定しています。一方他社の多くは、電源の出力を掲載しています。ファンやバックプレーンなど、シャーシのコンポーネントが消費する電力を電源の総電力から差し引くことで、コントローラおよびモジュールに使用可能な電力がNIのドキュメントに明記されています。NI PXIシャーシのマニュアルでは、各電圧レール上の電流とスロットあたりの最大消費電力量を明記しています。
市場に出回っている他のPXIベンダとは異なり、NIは8スロットから18スロットの多くのPXIおよびPXI Expressシャーシにおいて、計測器グレードの電源の設計を自社で担っています。そのため、NIはそれらの電源の長期安定供給を保証しており、電源メーカーの変更によるシャーシ設計の変更もあまりありません。逆に、標準のPC電源のみを採用している他のPXIベンダは、電源の品質について関与することがほとんどできません。
NI PXIシャーシに搭載されている計測器グレードの電源は、汎用のパソコン向けに設計された電源とは異なり、PXI固有の電力要件を満たすよう最適化されています。NIの電源は、PXI仕様で定められた最小電力要件を満たすだけでなく、それを上回るようにNIシャーシ向けにカスタム設計されています。たとえば、これらの電源により、NIの高性能PXI Expressシャーシはすべてのシャーシスロットに少なくとも82 Wを供給することができます。
電圧 | スロット | 提供された電流 | |
---|---|---|---|
PXI-5最小仕様 | NI高性能PXI | ||
+12 V | システム | 11 A | 20 A |
周辺機器 | 2 A | 6 A | |
ハイブリッド | 2 A | 6 A | |
+3.3V | システム | 9 A | 9 A |
周辺機器 | 3 A | 3 A | |
ハイブリッド | 3 A | 3 A | |
+5 V | システム | 9 A | 9 A |
周辺機器 | – | – | |
ハイブリッド | 2 A | 2.5 A | |
-12 V | システム | – | – |
周辺機器 | – | – | |
ハイブリッド | 0.25 A | 0.25 A |
表2: NI PXI Expressシャーシは、スロットあたりの最小電流に関するPXI仕様を上回るように設計されています。
高可用性が求められるシステム向けに、NIは一部の9スロット以上のシャーシに対して、交換が容易な電源とファンを設計しました。電源に故障が発生した場合、ユーザは固定用ネジを取り外した後、背面から故障した電源を引き出して交換用電源を差し込むことで、電源の交換を行うことができます。同様に、ユーザはシャーシ背面から、パネル固定ネジを取り外し、既存のファンパネルを取り外して交換用ファンパネルを接続し、パネル固定ネジを再度取り付けることで、メインファンを交換することができます。この設計のおかげで、電源の平均修理時間 (MTTR) は5分未満となっています。ラックマウント型で設置されているシャーシの場合は、シャーシの背面に手が届くようにさえなっていれば、モジュールを取り出したり、I/Oの再接続などを行わなくても、電源と背面ファンを交換することができます。この機能に対応するシャーシを確認するには、製品仕様をご参照ください。
NI PXIシャーシは計測器品質の電源を採用しているため、電力低下を起こすことなく、全指定動作温度範囲 (0 °C~50–55 °C) にわたって最低限の電力要件を満たすことができます。電力低下とは、高温など極端な環境条件で動作させたときに、シャーシのスロットに供給される電力の低下のことをいいます。他の多くのベンダのPXIシャーシは、より低い動作周囲温度 (20 °C~35 °C) での利用可能な電力のPXI仕様は満たしていますが、より高い温度 (40℃超) になると不安定または動作不能になることがあります。繰り返しになりますが、NI PXIシャーシは、すべてのスロットがモジュールで挿入された状態でも、データシートに記載された高温環境で動作可能です (特定のモデルのNI PXIシャーシの動作温度範囲につきましては、製品マニュアルを参照してください)。NIの電源は、100 VACから240 VACまでのユニバーサルAC入力範囲全体にわたって定格出力を維持しますが、競合他社のシャーシでは、この範囲の低電圧側で大幅に定格が下がる場合があります。
特に冷却ファンなどシャーシ内の可動機械機構により発せられる電気的ノイズは、PXI/PXI Express周辺モジュールの計測確度低下の原因となります。それを防ぐため、多くのNIシャーシには背面に冷却ファンが設置されているだけでなく、冷却ファンやシステムコントローラスロット、場合によっては電源ファンなどに電力を供給するための専用の12 V電源も備えていますので、それらのコンポーネントから計測モジュールに電力を供給するレールへの結合ノイズを防止することができます。
ほとんどのNIシャーシは、バックプレーンの電源レールに出力電圧のリモート検出機能も備えているため、電圧低下を補償することも可能です。リモートセンシングは、PXIおよびPXI Expressシャーシにおいて重要な設計機能であり、とくに大電力モジュールを使用する用途において、負荷変動が大きい場合でもバックプレーンでの電圧制御を安定させる効果があります。
PXIシステムの主な利点として、統合されたタイミング/同期機能があります。PXIシャーシには、各スロットに低スキューで分配される専用の100/10 MHzシステムリファレンスクロック (PXI_CLK10およびPXIe_CLK100)、すべてのスロットに接続される8線のPXIトリガバス、周辺スロットにスターおよび差動スタートリガを提供するシステムタイミングスロットが搭載されています。
図2: PXI Expressのタイミングと同期機能は大きな利点である
オプションのタイミングおよび同期アップグレードにより、一部のNI PXIシャーシのタイミングおよび同期機能をさらに強化することができます。PXIe-1095およびPXIe-1092は、PXI_CLK10およびPXIe_CLK100の周波数安定性の向上、外部10 MHz基準クロックへのインポートおよび自動ロック、10 MHz基準クロックのエクスポート、PXIトリガバスのインポートおよびエクスポートを可能にするOCXOにアップグレードできます。NI PXIのタイミングおよび同期機能が、高性能で複雑かつスケーラブルなソリューションの構築を如何に容易にするかについて詳しくは、「NI PXIタイミングおよび同期設計の特長」をご覧ください。
NI PXIシャーシには以下の機能があります。
表3: PXIシャーシのオプションと構成
結論として、NI PXIシャーシは卓越した性能と信頼性を備えており、高性能かつ高出力の自動テストにおいて重要なコンポーネントとなっています。PXI Express仕様を上回る優れた冷却能力により、これらのシャーシは高出力モジュールをサポートし、最適な熱管理を実現します。カスタム設計された電源は、安定かつ一貫した電力供給を保証し、テストの確度と精度を維持するために重要な役割を果たします。NI PXIシャーシは、テスト環境のニーズを満たす優れたパフォーマンスと信頼性を提供するように設計されています。
選択ガイド | モデル | 製品番号 | シャーシの電源タイプ | 最大システム帯域幅 | スロット冷却能力 | システムタイミングスロット | オンボードクロックタイプ | スロット数 | 外部クロック | 外部トリガへのアクセス |
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低コスト、スモールフォームファクタシャーシ、旧世代 | PXIe-1071 | 781368-01 | AC | 3 GB/s | 38 W | — | VCXO | 合計:4 ハイブリッド:3 PXI Express:0 | — | — |
PXIe-1073 | 781163-01 | AC | 250 MB/s | 38 W | — | VCXO | 合計:5 ハイブリッド:3 PXI Express:2 | — | — | |
PXIe-1090 | 787040-01 | AC | 2 GB/s | 58 W | — | VCXO | 合計:2 ハイブリッド:1 PXI Express:1 | — | ||
PXIe-1083 | 787026-01 | AC | 2 GB/s | 58 W | — | VCXO | 合計:5 ハイブリッド:5 PXI Express:0 | — | — | |
エントリーレベル、コスト競争力、中程度の冷却能力 | PXIe-1082DC | 782946-01 | DC | 8 GB/s | 38 W | VCXO | 合計:8 ハイブリッド:4 PXI Express:3 | — | ||
PXIe-1084 | 784058-01 | AC | 4 GB/s | 58 W | — | VCXO | 合計:18 ハイブリッド:17 PXI Express:0 | — | — | |
786397-01 | ||||||||||
PXIe-1085 | 783588-01 | AC | 24 GB/s | 38 W | VCXO | 合計:18 ハイブリッド:16 PXI Express:1 | — | |||
PXIe-1086 | 781720-01 | AC | 12 GB/s | 38 W | VCXO | 合計:18 ハイブリッド:16 PXI Express:1 | — | |||
PXIe-1086DC | 787137-01 | DC | 12 GB/s | 38 W | VCXO | 合計:18 ハイブリッド:16 PXI Express:1 | — | |||
PXIe-1088 | 784782-01 | AC | 8 GB/s | 58 W | — | VCXO | 合計:9 ハイブリッド:8 PXI Express:0 | — | — | |
最高のパフォーマンス、最新世代、最高の冷却能力 | PXIe-1092 | 784781-01 | AC | 24 GB/s | 82 W | VCXO | 合計:10 ハイブリッド:7 PXI Express:0 | — | — | |
786991-01 | OCXO | |||||||||
PXIe-1095 | 783882-01 | AC | 24 GB/s | 82 W | VCXO | 合計:18 ハイブリッド:5 PXI Express:11 | — | — | ||
785971-01 | OCXO |